杜の音だより

ギャラリー杜の音 コラム③

早いもので、ギャラリー杜の音コラムも3回目を迎えました。 

(過去のコラムはこちらから → コラム① コラム②

 

今回のテーマは『コミュニケーションギャップの例』です。

 

 

医師が言う「標準治療」とは 

私事ですが、先日実父の通院付き添いのときです。がんの治療についての情報は、ときにニュースにもなり、インターネットや書籍などで探せばたくさん出てきます。

「〇〇でがんが消えた!」という記事を見ると、もしかしてその治療法で治るかもしれないと思う人もいるでしょう。そんなとき、医師から「標準治療」をすすめられ、その「標準」ということばの印象から、「普通の治療」「並みの治療」ではなく、「特別な治療」をしたいと思いが浮かびました。ですが、医師の言う「標準治療」は、「普通」「平均的」「一般的」な治療という意味ではないようです。

医療の世界では、「科学的根拠に基づいた観点で、効果があること、安全であることが検討された、現在利用できる最良の治療で、ある状態の一般的な患者さんにおこなわれることが推奨されている治療」のことを指します。標準治療は定期的に見直されており、もし、新しい治療法が現在の標準治療と科学的な手法で比べられて優れていることが確認されれば、その新しい治療法が次の標準治療になります。


ちなみに、英語ではゴールド・スタンダードと呼ばれます。こちらのほうが、「最良」というニュアンスが伝わりますね。

 

 

 

 

科学的根拠(エビデンス)に基づく医療

現在は世界中で「科学的根拠に基づいた治療」がおこなわれています。「科学的根拠」は「エビデンス」とも呼ばれます。

「エビデンスがある治療」とは、たくさんの患者さんが参加した臨床試験などによって、その効果と安全性が検討された治療です。研究者グループがその効果などを報告した論文は、厳格な審査をクリアして、科学雑誌に掲載され、世界中の医師や研究者が確認することができるようになります。 

 

 

最新の標準治療を推奨するガイドライン

がんの診療で用いられる「診療ガイドライン」は、科学的根拠に基づいて、がんの種類ごと、がんの状態ごとに、現在の日本で受けることができる最良と考えられる治療法を示しています。

そのガイドラインで推奨されているのが、その時点における標準治療です。世界中の研究成果(エビデンス)をまとめた集大成となっています。医師はこの診療ガイドラインを治療方針の判断材料のひとつとして、患者さんの希望、医師の専門性を合わせて、科学的根拠に基づく医療(EBM Evidence-Based Medicine)を実践していきます。

 

 

 

◆「最新治療」ということばには要注意

インターネットで見つけたり、医療業界ではない人からすすめられたりした「最新治療」には注意が必要です。その治療は、最新医療の名のもとに科学的根拠のない療法を高額な自由診療で提供しているものである可能性もあります。

新しい医療では予期していない副作用が起こることがあり、薬物療法の専門医がいるなど、体制が整った医療機関で受ける必要があります。日本臨床腫瘍学会では、「がん免疫療法に関する注意喚起について」で、患者さんに自由診療に対する慎重な対応と設備の整った医療機関での受診などを促しています。    

また、新聞やテレビなどで紹介されるものには、試験管レベルやネズミを用いた研究であり、人間に対する効果や安全性は全く確認されていないものも少なくありません。ネズミに効いても人間に効くものはごく限られますし、臨床試験や治験がおこなわれ、実際に効果が確認されるまで、多くの年月がかかります。

一方で、医師から「新しい治療法の研究に参加しますか」「こんな治験がありますが、参加しますか」などと言われることがあります。この場合は、効果が期待されるが、まだ科学的に確認はされていない(まだ標準治療として認められる段階ではない)、研究段階の治療法で、その効果を確認するための研究である可能性があります。その治療内容や期待できる効果、考えられる副作用など、自分にとっての意味をメリット・デメリットも含めて医師によく聞いてみるとよいでしょう。

がんの場合、世界中で多くの医学研究者が、よりよい治療法の開発に取り組んでいるので、たびたび、「新しい治療法」が話題になります。しかし、研究段階の「新しい治療法」が本当に標準治療より優れているのかをすぐに判断することは難しいのです。

「治験」とは、これから世に送り出される新しい薬について、健康な方や患者さんの協力を得て、有効性と安全性を調べる臨床試験であり、厚生労働省が承認するために必要な試験を指します。

参考文献:厚労省(治療ガイドライン、臨床研究など)

 

文責:千葉 政美