杜の音だより

ギャラリー杜の音 コラム⑥

今回のタイトルは 

「昭和のお父さんの威厳と認知症になってしまった父の尊厳とは」

( 過去のコラムはこちらから →      )

 

「威厳」のイメージとしては、日本の昭和の父親像などがあるでしょう。

日本の昭和の父親は、厳しくて恐ろしいので話が気軽にできませんが、立派で万一のときには頼りになるというような感じです。

威厳がある」というのは単純に恐ろしいのみでなく、基本的に他の人から敬われ(うやまわれ)ている必要があります。重々しくて落ち着いた雰囲気があることも大切であるため、若い人に「威厳がある○○な青年だ」とはなかなか言わないものです。「威厳」の「威」の意味は「恐れさせる」で「厳」の意味は「おごそか」ということです。

そのため、「威厳」の意味は「畏れ(おそれ)多くて厳かなこと」になります。一方、「尊厳」の意味は「厳かで尊く、気高くて犯しがたい」ということであるため「威厳」とは意味が違っています。

「厳かで堂々として近寄り難い」が「威厳」であり、「メンタル的に厳かで尊いため犯しがたいという価値観」が「尊厳」です。

 

 

 

ちなみにギャラリー杜の音のロゴマークのGマークの5つの “ 〇(マル

「自然・居住・医療・福祉・スタッフの5つの環境により多様な‘‘つながり‘‘を演出し、シニアの尊厳と誇りある暮らしをサポートする」という意味でデザインされました。

  

 

介護生活が始まり最初に直面するのは、介護をする自分を取り巻く環境の変化かもしれません。

仕事をしている息子は、職場に介護生活が始まることを伝えます。いざ介護が始まると自分のペースで残業もできなくなり、時間に対して今まで以上にシビアになるでしょう。また、職場の同僚も気を使って飲み会などの誘いも控えるようになるかもしれません。(今はコロナ禍なので飲み会の誘いはないですが…)

また、父親の介護を優先するあまり、自分の自由な時間も限られてきます。楽しんでいた趣味や余暇の時間を捻出することができず、友人や趣味仲間との連絡も取れなくなり徐々に疎遠になってしまうこともあります。

このように、介護生活が始まると人間関係が変化することや仕事と介護の両立が困難で仕事を辞めざるを得ないといった環境の変化もあります。

注意点としては、どんなに環境が変化しても孤独にならないことです。同じように親の介護をしている人とSNSで交流し地域の介護教室で介護者同士が知り合うことで新たな出会いもあるかもしれません。

また、公的な介護サービスを利用することで自分の時間をつくることができるかもしれません。特に男性は責任感が強いので「介護も自分の責任」と背負い込みやすいところがあり、誰にも相談せず孤独にもなりがちです。しかし、「介護をしているから仕方がない」と孤独な環境を受け入れるのではなく前向きに環境を変化させていくことは、長い介護生活をするうえで大切なポイントだと思います。

 

 

実の父親だからこそつまずきやすいポイント☝

1.父親の老いを受け入れられない

息子にとって、父親は威厳があり尊敬できる存在である方が多いのではないでしょうか。 そんな父親が、介護の必要な状況になり誰かに頼らないといけなくなったときに、息子はそのような父親の姿に戸惑ってしまうことがよくあります。身体が弱っていく父親とどう接すればいいのかわからなくなり、無意識に距離を置いてしまうこともあるかもしれません。身体的な衰えと同時に意欲も低下し、父親が弱音を吐くことは特別なことではありません。老いる過程の中で誰しも経験することです。介護をしている私自身も歳を取れば同じ老いがやってくるでしょう。介護を始めて間もないころは受け入れられないかもしれませんが、父親に戸惑う素ぶりを見せないように注意して介護をしています。

そのような姿を父親に見せてしまうと父親も戸惑ってしまい悲観的になり、介護を拒否し心を閉ざしてしまうかもしれません。そのような失敗をしないためにも、今まで育ててくれた恩返しと思って父親に接してみるのも一つの手かもしれません。すると、父親と良い距離感で介護できるかもしれません。また、私は今まで父親に「自分達に迷惑をかけないようにしてほしい」と話をしてきましたが、支えることに思考を切り替えたら逆に楽になりました。父親は身体的に不自由であり、求められても応えられないことの方が多くなってきました。求めるのではなく、ありのままの父親を受け入れるようにしています。

 

 

2.自分の弱みをさらけだせない

威厳があり、それが邪魔をして自分の弱みをさらけ出すことに抵抗が生じるものです。特に排せつの失敗やオムツ交換が必要になったとき、父親の威厳はガタガタになっているかもしれません。誰にも知られたくないのに、自分の弱みを見られてしまっているからです。

こういう場面に「おやじ、何おしっこ漏らしているんだよ」などと良かれと思って冗談めいた声かけをしてしまうと、父親のプライドは傷つくものです。介護を受けているということだけで、すでに傷ついていることでしょう。たとえ冗談であっても本人の尊厳を傷つけないような声かけをするように心掛けています。

 

 

3.自力でなんとかしようという思考に陥る

息子がする介護に良くみられることですが、自分でなんでも解決しようとする傾向にあります。周りの人に協力を求めたりせずに父親のために自分でどうにかしようと行動します。自分で調べ、動くことは何も悪いことではありません。

しかし、それが正しいのか不安に思ったときや状況が改善されない場合は早急に相談しましょう。場合によっては、医師やケアマネジャーなどの専門家に力を借りないと改善しない場合もあります。

周囲に相談することや協力を得ることは、恥ずべきことではありません。一人で抱えずに周囲に相談するようにしましょう。介護を受ける父親の立場からすると”誰にも迷惑をかけたくない“という気持ちが先行し、多少の不自由や苦痛を我慢してしまうこともあるかもしれません。

また、息子の立場からすると、”父親の介護を自分でしないといけない”と、その責任感から一人で抱え込み、誰にも相談できないという状況があります。

介護は一人で行うものではなく、さまざまな人の助けを借りて行うものです。それを迷惑と感じるのではなく、他者に協力を求めると考えるようにしましょう。

人は誰しも支えあって生きています。介護も支えあいの一つだと思って、父親も息子も我慢や抱え込むことがないようにすることが介護につまずかないポイントのような気がします。

さまざまな人に協力してもらうことで、より良い介護が実現できます。支えあいながら介護生活を楽しく続けましょう。

文責:千葉政美